寄生虫の大体の流れがわかったところで実際に各論に入っていきます。
https://yurudream.com/2019/06/02/parasitology-1/
“寄生虫はポケモンだ”と言われるくらい、ただただ1つずつ覚えていくしかない寄生虫ですが、総論的な知識を覚えるだけで暗記量がぐっと減ります。
なので、各論においても総論的な知識をつけることに重点を置いて説明していきたいと思います。
条虫の特徴
条虫のそれぞれの特徴を見ていく前に、条虫全体の特徴です。
条虫綱は、擬葉目と円葉目に分類されます。
- 中間宿主2つ
- 産卵孔あり
- 虫卵に小蓋あり
- 中間宿主1つ
- 産卵孔なし
- 虫卵に小蓋なし
もちろん生活環が違います
外見
何か変な紐っぽいものが便に…と連絡を受けた時に、
「うどんですか?きしめんですか?」
と聞く話を聞いたことがあるかもしれません。
条虫は細長く、頭部と片節からなります。
頭節には、終宿主の消化管に体を固定するための吸盤・吸溝があります。
この頭部が消化管などの寄生部位にくっつき、便中に片節がちぎれてきしめん状のようなものが出てきます。
雌雄同体
条虫には雌雄の区別はありません。
各片節に精巣・卵巣両方があります。
ここからの特徴は肉眼では見えません。
消化器を持たない
条虫は消化管を持たないため、体内で栄養の取り込みができません。
その代わりに、体表全体が小腸のような構造をしており、そこで吸収できます。
見分け方
条虫は石灰小体を持っています。
石灰小体は、コッサ染色でそまります。
なので、コッサ染色で白く染まればそれは条虫です。
条虫同士は虫卵で見分けられます。
虫卵の見分け方はよく試験に出ますね。
駆虫薬
大体は、プラジカンテルを使います。
例外だけ覚えればOKです。
プラジカンテルは、原則として成虫にのみ効きます。
条虫の寄生部位
条虫の寄生部位は、大きく分けて2つです。
消化管かそれ以外か
解剖をやった人なら当たり前のことだと思いますが、消化管に何かが入っても、体内に寄生されたとは考えません。
消化管を素通りして肛門から排泄されれば、体内には取り込まれませんよね。
同じように寄生虫も消化管上に寄生したものは、重症化しにくいのです。また消化管に寄生するものは、ヒトを終宿主としているものです。
ヒトを終宿主=消化管寄生=軽傷
ex)広節裂頭条虫、大復殖門条虫。無鉤条虫、有鉤条虫、小形条虫、縮小条虫
それに対して消化管以外の臓器や組織に寄生するものは重症化しやすいです。
これはヒトを中間宿主とするものが当てはまります。
ヒトを中間宿主=臓器・組織寄生=重症
ex)マンソン裂頭条虫、有鉤条虫、多包条虫、単包条虫
擬葉目
擬葉目は中間宿主を2つ持ちます。
2つ持つのはこの擬葉目だけです。
虫卵
第1中間宿主(ケンミジンコ)
第2中間宿主(魚類)
終宿主
という生活環を形成しています。
虫卵から出てきたコラシジウムが第1中間宿主へ寄生。
第1中間宿主でプロセルコイドとなり、第2中間宿主へ。
その後、第2中間宿主でプレロセルコイドとなり、終宿主へ。
終宿主で成虫になります。
ここで、覚えて欲しいのは、中間宿主、終宿主ではそれぞれの成長があるということです。
擬葉目は産卵孔を持つので糞便中に虫卵を検出できます。
検出した虫卵には小蓋があります。
円葉目には小蓋はないので、虫卵で見分けられます。
広節裂頭条虫(日本海裂頭条虫)
国内で最も症例数の多い条虫です。
広節裂頭条虫、日本海裂頭条虫はほとんど同じもののことを指しています。この違いは悪性貧血を起こすかどうかだけです。
日本の症例では、悪性貧血が見られません。
小蓋が開いて中からコラシジウムが出てくる。
第1中間宿主:ケンミジンコ
第2中間宿主:サケ・マス
終宿主:ヒト
感染経路:経口感染
症状:大体は無症状。不快感。時々下痢
診断:排泄された片節の同定。検便の虫卵の検出
排泄される片節、あとは虫卵が黄褐色、小蓋があることで、診断することができます。
トイレなどで白いものが排泄された…と言われることがあれば、「うどんですか?きし麺ですか?」と聞きましょう。
広節裂頭条虫は、片節がきし麺状です。
治療:プラジカンテル+下剤
頭節さえあればいくらでも片節は復活するので、頭節を取り除く必要があります。不快感を催すのは、片節が排泄されるときです。
マンソン裂頭条虫
マンソン裂頭条虫はゲテモノ食いで感染するということが1番の特徴です。
第1中間宿主:ケンミジンコ
第2中間宿主:カエル・ヘビ
待機宿主:終宿主以外の両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類
終宿主:イヌ・ネコ
感染経路:ケンミジンコの入った水、中間宿主、待機宿主の経口感染、経皮感染(特殊)
こう見てみると、あれ?ヒトは?となるかもしれません。ヒトには経口感染で感染しますが、ゲテモノを食べて感染するということが多いです。
マンソン裂頭条虫は幼虫が感染することでマンソン孤虫症を発症します。
症状:皮膚の下にプレロセルコイドが入り込むことで、移動性腫瘤となります。プレロセルコイドは幼虫なので体内に入ると消化管壁を破って移動し、脳や脊髄に入ることがあります。
また、組織に入り込み動き回るので、好酸球が増加します。
診断:抗体検査。ゲテモノ食いをしたか聞く。虫体を見つけられれば確定。
治療:虫体を摘出
プラジカンテルは成虫にのみ効く薬です。なので、幼虫が寄生するマンソン孤虫症には効きません。
九州に多い
円葉目
円葉目は擬葉目とは異なり、中間宿主が1個しかありません。
虫卵→中間宿主→終宿主(ヒト・哺乳類)
という総論で説明した非常に一般的な生活環です。
しかし、円葉目は、寄生虫の成長段階が非常に特徴的です。
虫卵は、無鉤条虫、有鉤条虫、エキノコックスでの区別はできません。また、産卵孔がないので糞便虫に虫卵が検出されない。
虫卵から出て中間宿主へ寄生するのは、六鉤幼虫
中間宿主から出て終宿主へと寄生するのは、嚢虫・包虫・共尾虫・擬嚢尾虫の4つの種類があります。これらが終宿主で成長して成虫となります。
六鉤幼虫とはその名の通り、染色して顕微鏡で観察すると6つの鍵を持っているように見える幼虫です。これは円葉目でしか見られません。
また、中間宿主での成長で難しい名前がたくさん並んでいます。ここで重要なのは、下線部の嚢虫・包虫の2つと、これらが幼虫であるということです。
無鉤条虫
頭節に鉤はないが、吸盤が4個ある
片節では子宮が20個以上に分岐しているので、有鉤条虫と判別しやすいです。
中間宿主:ウシ(筋肉内に嚢虫として寄生)
終宿主:(腸に寄生)
感染経路:経口感染
症状:ヒトには成虫が寄生。多くは無症状、不快感。
診断:セロハン肛門周囲検査法で診断します。片節が服で破れて肛門に虫卵が付いていることがあり、その場合は検出できます。
治療:プラジカンテルと下剤の併用
ウシにはツノがあります。なのに鉤がない条虫…。
有鉤条虫
頭節に鉤がある。子宮の分岐が7〜10個と無鉤条虫より少ない。
中間宿主:ブタ・ヒト
終宿主:ヒト
感染経路:経口感染
ヒトを中間宿主にも終宿主にも持つ数少ない寄生虫です。
幼虫が寄生するか成虫が寄生するかで症状が大きく異なりなります。
こっちはツノがないブタなのに有鉤…。
有鉤条虫症
成虫がヒトに寄生する場合の症状です。
診断:片節の同定。セロハン肛門周囲検査法
治療:消化管造影剤or微温湯、もしくは内視鏡で届く範囲なら内視鏡で頭節を外す。
成虫寄生にも関わらず、プラジカンテルが使えません。
これは効かないのではなく、むしろ効きすぎるからです。有鉤条虫はヒトを中間宿主をしているため、片節を体内で壊さないように駆虫する必要があります。
プラジカンテルだと片節を壊して体内に虫卵をばら撒きます。
有鉤嚢虫症
ヒトが虫卵を口から取り込んで幼虫が寄生する場合の症状です。
筋肉や神経などさまざまな場所に寄生します。
- 皮下寄生:皮膚腫瘤
- 筋肉寄生:筋力低下、運動障害
- 中枢神経:てんかん発作、精神症状
- 内蔵寄生:心臓、肺、眼球
診断:外科的に切除、抗体検査、画像診断
治療:外科的に切除。例外的に、幼虫にプラジカンテルが効く
中枢神経に寄生した際には、治療しないことがあります。
プラジカンテルは寄生虫を殺すことができますが、寄生虫が死ぬことで異物と認識され炎症が起き、脳細胞に影響を与えてしまう恐れがあるためです。
エキノコックス
エキノコックスには2種類あります。
多包条虫と単包条虫です。
このうち、多包条虫は北海道に感染源があります。北海道でキツネを触るなと言われるのはそのためですね。
- 多包条虫、単包条虫→成虫
- 多包虫、単包虫→幼虫
のことを指します。
寄生部位:肝臓
これは、小腸から侵入して血行性にたどり着くのが肝臓だからです
多包条虫
中間宿主:ハタネズミ
終宿主:キツネ、オオカミなどイヌ科の肉食動物
ヒトには幼虫が寄生します。
症状:肝機能障害、黄疸→肺や脳に転移
多包虫は育つのが遅く通常では10〜20年ほどは自覚症状がありません。
しかし、徐々に症状が出始めて、寄生虫では珍しく、無治療であれば宿主を死亡させます。
診断:抗体検査、画像診断
治療:外科的切除。アルベンダゾールの長期投与が有効なこともある
幼虫が寄生するので、プラジカンテルは効きません。
単包条虫
中間宿主:家畜、ヒト
終宿主:イヌ
肝臓→脳や肺に転移
潜伏期:5〜10年と非常に長い。
治療:外科的切除。単包虫症では、その名の通り1つの塊になっているので多包虫症よりも取り出しやすい
針で穴を開け、虫体にアルコールを入れることで殺すこともできる
アルベンダゾールの長期投与が有効なこともある。
中間宿主が主に家畜なので家畜の内臓をイヌに食べさせないようにすることで防ぐことができます。
小形条虫
小形条虫は他の条虫にない様々な特徴があります。
虫卵はレモンのような形をしています。
小形条虫の”小”は小児の小と覚えましょう。ほとんどが小児の疾患です。唯一のヒト寄生条虫
中間宿主を持たない
終宿主:マウス、ヒト
自家感染を起こす
体内に入った寄生虫は、その数が増えることはないのが原則でした。しかし、自家感染を起こす寄生虫では、体内で虫卵がばらまかれて虫体となることで虫体が増加したようになります。
感染経路:食物、水などに含まれる虫卵による経口感染
ノミ、昆虫などから感染することもある
症状:腹痛、下痢、体重減少、貧血など
体内で虫卵がばらまかれるので、好酸球が増加します。免疫が弱まっている状態では、十分に除去できず、自家感染が生じやすいです。
治療:プラジカンテル
予防:穀物の貯蔵方を考える、ネズミを駆除する
小形条虫は穀物にくっつき、それを誤って取り込んでしまうことがあります。
そのため、穀物の貯蔵法には注意しましょう。
縮小条虫
中間宿主:昆虫の甲虫類(コメムシ、ノミなど)
終宿主:ヒト、ラット
症状:下痢、腹痛
治療:プラジカンテルと下剤の併用
条虫のまとめ
条虫は、消化管を持たない原始的な生物で、擬葉目と円葉目の2つに分けられます。
消化管に寄生するものは軽症で、組織や臓器に寄生するものは重症となりやすく、大体の条虫はプラジカンテルを投与することで駆逐できます。
ただ、プラジカンテルは成虫にのみしか効かないので、幼虫の感染症には効きません。
成虫の中でも、中枢神経に寄生する場合や、中間宿主にも終宿主にもなっている場合には聞きすぎるので使わないこともあります。
以上、寄生虫学各論1-条虫でした。